前回のこの欄で人間の体内時計の変調がいろいろな問題を起こすと書きました。
先日新聞にもこの時差ボケが、脳の(側頭葉)萎縮が起こり感覚や思考に問題を起こすと書いてありました。我々にとっては、この時差ボケ症候群といわれる症状に、やっと科学的なメスが入ったと感じています。前回書いた体内時計の大切さを再確認して欲しいと思っています。
さて今月からは現代社会と子どもの育ちと題して、お話しましょう。
最近保育者の中で話題になっていることがあります。それは子どものかみつきです。子どもが成長する過程で、1歳半から2歳半にかけて子どもにはかみつき行動というのがあります。それは言葉がまだしゃべれず、欲しいという欲求にイライラすることで起こるもので一過性のもので、ある程度の年齢になるとおさまります。ところが最近ちょっと子どもたちの中に異変が起きています。それは4歳・5歳になってもかみつく子や、何も意識出来る理由もないのにかみつく子の存在です。普通この年齢の子はおもちゃを取られたり、となりの子が何かしたとかの理由でかみつきます。自分の物といった感覚や他に欲しいものを発見したりと自我や欲求の育ちの表れです。ところが先に書いたような子はそんな理由はありません。他の子がちょっとさわったとか、目の前を通り過ぎたからといった理由でかみつきます。とにかく保育者にとってはかみつく予想も出来ません。
そこで我園では原因の究明を始めました。そして1歳児の行動を観察して見ると1つの原因にぶつかりました。それは神経の高ぶりです。学術的に言うならば緊張状態であるということです。そこでクラスの先生に立ち歩く事を出来るだけ少なくし、クラスを静かにし、先生も叫ばないといったことをしてもらいました。そうすると子どものかみつくタイミングが少し遅くなりました。このことで一つわかったことがあります。それは子どもの感覚神経が常に高ぶった状態にあり、そのことがかみつき行動の多発につながっているということです。
でもそれはなぜなのでしょうか。
私は家庭の中があわただしく、さわがしく、静かな落ち着いた環境が欠如しているせいと考えます。1日中テレビはついている、そのテレビもどぎつい色で画面は変わる、食事もテレビを見ながら、車に乗れば大音響のステレオがなる、一日の中で静かに子どもと向かい合う時間がない、家で家族の顔を見てるのは人間でなくテレビといった現代社会が、1歳児の育ちを変化させ、常にイライラした子どもたちを作り出しているように感じます。
今必要なのは静かで、落ち着いた、そして人間同士の向かい合う生活なのではないでしょうか。
そして一番大切なのは、子どもを育てている大人が落ち着くことではないでしょうか。現代社会にあふれる音や色によって精神が押しつぶされないように、今一度家庭内を見回し子どもにも大人にも安らげる生活空間の構築が必要と感じます。
現代社会は、大人も子どももすべてをおかしくする魔力があることに気がつきましょう。   
現代社会と子どもの育ち

No.2 (h13.5)