子どもの育つに必要な環境についてお話しております。
今回はその4回目で「時間的環境」です。
 時間というものは止まることなく流れるもので、ゆっくりまた早く進む時間的環境というものは存在しません。
 ここでいう「時間的環境」とは、子どもの為にどれだけの時間を与える(親が許せる幅)ことができるかということです。そして特にここで問題にしているのは発達における「充実」の時間のことです。
 「這えば立て、立てば歩けの親心」という言葉があります。
この言葉は親として子どもの成長・発達の変化が待ち遠しくて、早く次の変化を見たいという親心を言った言葉です。しかしこの言葉の持つ親心の温かさは感じなくてはいけませんが、この言葉をそのまま受け入れてしまうことは間違いです。
 結構田舎ではまだまだ残っているしきたりで、1歳の誕生日に子どもに1升餅をかつがせるというまつりごとがありますが、これは1歳前に歩く子はあまり良い発達をしないので、お餅の重さで歩けないようにし、しっかり這えという教えから始まったと聞いております。
このことの意味は大きく、一つひとつの発達を大切に考え、しっかりしたものにしようという先人の大きな教えです。
 ところが他の同年齢の子の発達には敏感になり、競争のように子どもの発達を考えてしまう親も多いものです。早ければ早いほど優れているという誤解の産物のように感じます。
子どもの発達は季節の果物と同じで、その時期になると自然に実を結びます。ところがその時期を早くしたり、順番を変えたりすると、必ず何かの弊害を引き起こします。
果物も子どもも自然に(基本的な法則通り)育つのが一番なのです。
そしてその為にはしっかりと熟成(成長)する時間が必要なのです。
子どもの成長と発達の関係は変化と熟成の関係です。
発達は変化(何かが出来るようになる)の歴史で、成長は熟成(可能になった能力を十分に使えるようになる)の歴史です。それは例えれば階段のようなもので、一段の高さの部分が発達で、次の段にいくまでの足を置く場所が成長として考えてください。
早く発達させることはこの足の置き場のスペースを小さくすることになり、非常に不安定となります。
一段一段を確実にゆっくり上がることが重要なのです。
「やらせれば出来たので・・・」というお言葉をよく聞きますが、実はこれが一番怖いことなのです。子どもというのは非常に適応能力が高く、その時期には無理と思われるものでも積み重ねの中で許容してしまうのです。
極端ですが実例をお話すれば、3ヶ月の子どもでもカレーライスを食べることは出来ますし、4歳で国語辞書一冊を丸暗記することも可能です。
やらせれば出来るのです。
しかしやらせてはいけないのです。
カレーライス食べた子は極度の肥満で歩行が2歳を過ぎてしまいましたし、辞書を暗記した子は覚えたことを何一つ使えませんでした。
とにかく成長・発達というものは競争するものでは決してないのです。
子どもの熟成を第一に考えて、そのための時間を子どもに与えてほしいと思っています。
子どもの育つ環境の中で作られた弊害を元に戻すには、2倍から3倍の時間を必要とすることを知ってください。
ゆっくリズムで育つ子は後に大きな発達の成果を出しますが、発達の早かった子は必ず何らかの問題を残すことを知り、後に心痛の多い子育てにならないよう注意しましょう。
子どもの育つ力と環境 4

No.21 (H15.4)